観光 【本】

Sightseeing
ラッタウット・ラープチャルーンサップ(古屋美登利 訳)
2010年8月25日刊行
早川書房 ¥800(+税)

計画停電なるものを経験してわかったことがある。一口にロウソクといっても、その明るさにはいろいろあるということだ。“なんとかキャンドル”の類いのおされなロウソクは暗くて使いものにならない。今回いちばん役に立ったのは、数年前、父が他界したときに葬儀屋が置いていったロウソク。仏壇用ではなく、骨壺を置いておく後飾り祭壇用の大ロウソク(長さ約20センチ)で、ムードだの癒しだのといった効果はまったく期待できないが、2本灯せば、本を読めるほどの明るさを提供してくれる。

というわけで、停電のさなかに、後飾り祭壇用の大ロウソクの明かりで読んだのが表題の本。2007年にepiブック・プラネットから刊行された短篇集の文庫版で、「ガイジン」「カフェ・ラブリーで」「徴兵の日」「観光」「プリシラ」「こんなところで死にたくない」「闘鶏師」の7編が収録されている。物語の舞台はいずれもタイだが、著者はタイ系アメリカ人。作品には、縦糸に東洋、横糸に西洋の素材を使って織りあげた布地にも似た独特の風合いがあり、いずれの話もちょっとおかしくてちょっと哀しい。で、その笑わせ方や泣かせ方が奥ゆかしくて美しい。さすがはほほえみの国の人だ。
新作を心待ちにしたいところだが、文庫版訳者あとがきによると、著者は「いまどこにいて何をしているのかまったくわからない」んだとか。非常に残念なことだが、本文を読んだあとで知ったせいか、それはそれで奥ゆかしくて美しい話なんじゃないかと、そんな気がした。

いずれ劣らぬ名作揃いだが、私がいちばん好きなのは「ガイジン」。何度読んでも、しみじみします。


観光 (ハヤカワepi文庫)
早川書房
ラッタウット ラープチャルーンサップ


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この記事へのコメント

ひよこ
2011年05月13日 23:21
ロウソクの明かりで読書、なかなかオツですね。
20年まえに結婚したとき、結婚式の披露宴でキャンドルサービスのラストに、新郎新婦が点火するでっかいキャンドルがありました。あれはなぜか新郎新婦にプレゼントされ、毎年結婚記念日に点火して祝うらしいのですが、披露宴以来一度も点火しないまま離婚して実家に置きっぱなしだったそれが、計画停電のときはとても重宝したようです(母談)。ちなみに弟も結婚したとき同じようなキャンドルをもらったのですが、やっぱり離婚したので、計画電時に使ったとのこと。直径20センチ、高さ50センチくらいあるのでとても使いでがあるはずです。いやあ、あんなものが役に立つとは思いもしませんでした。今はわたしも弟も再婚していますが、あのキャンドルに点火したせいで不幸が訪れないことを祈るばかりです。
あんまり関係ない話ですみません。わたしも『観光』好きです。作者名がなかなか覚えられないけど。
Balkan
2011年05月14日 02:10
ひよこさん

離婚キャンドルと骨壺ロウソク、縁起の悪さでは結構いい勝負ですね。
作者名は、「覚えられない」を通り越して、「覚えられっこない」の域にあるかも。でも、長い苗字(ファンブロンクホルストとかシュリーレンツァウアーとか武者小路とか)って、貴族っぽくてあこがれます。

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